相続税の申告期限(相続開始時から10か月以内)までに相続財産の遺産分割が決まらなかった場合、『配偶者控除』や『小規模宅地等の特例控除』が使えず本来の相続税より高くなったりします。
また、何より相続人同士で揉めたくないですよね。そんな場合に備えて遺言書を作成しますが、今まで遺言書の保管場所など問題がありました。
■今までの遺言書の保管方法
今まで、遺言書は自宅で保管されることが多かったはずです。その場合、下記のような問題点がありました。
①遺言書が紛失
②相続人が遺言書の保管場所が分からない
③遺言書の改ざんや隠ぺい
上記を防ぐためには、公証役場で公証人及び承認関与のもとで遺言書を残す『公正証書遺言』という方法がありました。この場合、遺言書の紛失や改ざんなどを防ぐことができ、また遺言書の不備はほぼ確実に防げる方法だといえます。また、遺言書の中で最も高い確率で執行してもらえるでしょう。
しかし、デメリットとしては、公証人や証人にすべての財産を明らかにしなければならないです。また、公証人や証人に手数料や報酬を支払う必要があります。また、弁護士や専門家に依頼する場合、2週間から1か月程度は日数の余裕は必要ですし遺言書の打ち合わせなど手間もかかります。
遺言書を正確に有効性を高める場合には、公正証書遺言を作成するのが最も効果的と言えます。
■法務局における自筆証書遺言保管制度の創設
公正証書遺言ほど大げさに作成する必要がない。だけど、相続人になる遺族が揉めて欲しくない、誰に何を相続してもらいたか意思表示はしておきたいから遺言書は作成したいが、どこに保管したらいいのかわからない場合に使える制度です。
令和2年7月10日より、遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けることができるようになりました。
①預ける法務局・・・遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地の法務局
②遺言書・・・遺言者自ら作成
③法務局へ支払う手数料・・・遺言書の保管申請(1件 3,900円)
遺言書の閲覧請求(1回 1,400円)
遺言書情報証明書の交付請求(1通 1,400円)
遺言書の保管の申請の撤回及び変更(無料)
■メリット、デメリット
メリットは、公正証書遺言に比べ費用が格段に安いことです。公正証書遺言では手数料や証人への報酬を含めると約10万円程度かかります。それに比べ、法務局における自筆証書遺言保管制度は数千円程度で済みます。また、公正証書遺言では、証人が2人いりますが、『法務局における自筆証書遺言保管制度』は証人が必要ありません。
もちろんデメリットもあります。まずは、代理人申請ができません。『公正証書遺言』では、遺言者が自宅療養や入院している場合、公証人が自宅まで来てもらえますが、『法務局における自筆証書遺言保管制度』は、必ず遺言者本人が法務局へ出向く必要があります。また、法務局では遺言書の形式面はチェックしてもらえますが、遺言書の中身まではチェックしてもらえません。相続人の遺留分などを考えずに遺言書を作成した場合、後で相続人同士の揉める原因になる可能性があります。
今まで仲が良かった兄弟や親子が相続財産の分割で揉めるのは見たくないですよね。また被相続人ご自身の意思表示を相続人に確実にしたい場合、低費用で利用できる『法務局における自筆証書遺言保管制度』も考えてみましょう。